日記
22. インスタントコーヒー
22.インスタントコーヒー
コーヒー豆を焙煎し、砕いたものをレギュラーコーヒーと呼びます。そのレギュラーコーヒーにお湯を加えてコーヒー液を作り、水分を飛ばしてコーヒーの成分を抽出したものがインスタントコーヒーです。そのままお湯に溶けるため、手軽に楽しめるのが特徴です。数種類の異なるコーヒー豆を混ぜ合わせ、異なる味わいのコーヒー豆をブレンドすることで、1種類のコーヒー豆だけでは出すことができない香りや、酸味・苦味などの味わいを作り出すことができます。どのような味わい・香りを作り出すことを目指して、どの豆をどれくらいブレンドしていくかは、コーヒー会社の腕の見せどころです。
インスタントコーヒーの歴史
1.インスタントコーヒーの開発
①1771年、イギリスで水に溶かして飲める世界初のインスタントコーヒーが発明されました。しかし製品の貯蔵可能な期間が短く、その時の製法はすぐに歴史から消えてしまいました。
②1853年、米国で試験的に開発が試みられました。この時は今のような粉末状ではなくケーキの様な形をしていたそうです。南北戦争で兵士達に配給されたりしたのですが、やはり保存に難が有り、成功しませんでした。
③1889年、ニュージーランド、インバーカーギルのコーヒー・香辛料販売業者のデイビッド・ストラング氏が「ソリュブル・コーヒー・パウダー(可溶性コーヒー粉末)としてインスタントコーヒーの作成法の特許を取得し「ストラング・コーヒー」として製品化したのですが、成功には
至りませんでした。
④1899年、米国に住んでいた日本人化学者の加藤サトリ博士が、緑茶を即席化する研究途上の揮発性オイルを使用してコーヒー豆の抽出液を真空乾燥させる技術を開発し、1901年のパンアメリカン博覧会にて「ソリュブル・コーヒー」として発表しました。1903年に加藤博士は特許を取得しましたが、結果的には商品化までは成功しませんでした。
2.商品化
①1906年、ベルギーから米国に移住したジョージ・コンスタント・ワシントン氏は様々な技術分野の研究に着手していた人物ですが、インスタントコーヒーの製法を開発し特許を取得しました。
②1909年、同氏によるインスタントコーヒー「Red E Coffee」の商品化が成功しました。「Red E Coffee」により一般消費者にインスタントコーヒーが飲まれるようになり、第一次世界大戦では米軍兵士達に配給され大人気でした。カフェイン効果で眠気覚ましにもなるコーヒーは様々な面において重宝されたのです。
3.世界中で飲まれるようになった契機
①「Red E Coffee」の成功後、いくつかのメーカーがインスタントコーヒーの製造販売を行いましたが、その中でもスイスのネスレ社が最も大きな成功を収めました。
②1920年代末期、ブラジルでコーヒー豆が大豊作となり、価格相場が大暴落しました。そのため農民達は困窮し、その事に苦慮したブラジル政府がネスレ社に余剰のコーヒー豆を使った加工食品の開発を要請。ネスレ社は「スプレードライ法」によるインスタントコーヒーを完成させました。
③1938年4月1日、ネスレ社はスイスで「ネスカフェ」として製品を販売し、すぐにフランス、イギリス、米国に輸出を始めました。これが世界中でインスタントコーヒーが広く飲まれる契機になりました。第二次世界大戦ではネスカフェが米軍の主要な飲料となり大量に消費され、戦後、兵士たちは帰国した後も、飲むようになり、より多くの人々に受け入れられる事となりました。
④1960年代、「フリーズドライ法」によるインスタントコーヒーが米国で販売され、風味や香りが良い事から人気を博しました。
真空凍結乾燥(フリーズドライ製法)
コーヒーの旨味が溶け込んだコーヒー液を、専用の機械でマイナス40℃まで冷やして冷凍。凍ったコーヒー液を細かく砕いた後、真空状態にすると、
凍ったコーヒー液から水分が蒸発し、乾燥させることができます、フリーズドライ方式は、乾燥の際に熱を加えないため、コーヒー液に溶け込んだ風味や
香りを損なうことがありません。
噴霧乾燥(スプレードライ製法)
濃縮したコーヒー液を、高温の乾燥塔で噴霧し、水分を蒸発させる製法です。乾燥塔の中に霧状にしたコーヒー液を噴霧し、落ちてくる霧状のコーヒー液に熱風を当てることで、下に落ちるまでに水分が蒸発します。その後、乾燥した粉を砕いて気泡の空気を取り除いてから、再び粒状に
加工することで、冷たい水でもすぐ溶けやすくしています。造粒化(ぞうりゅうか)といいます。
豆の素材
インスタントコーヒーでも「アラビカ豆」「リベリカ豆」「ロブスタ豆」の3種類が使用されています。それぞれどのような特徴があるのでしょうか。
味や香りに優れている「アラビカ豆」
アラビカ豆は原産地がアフリカのエチオピアで、花のような甘い香りが特徴です。現在世界のコーヒー豆生産の6割弱が「アラビカ豆」が占めており、インスタントコーヒーにも採用されることが多い品種です。味や香りのバランスが取れているため、コーヒーが苦手な人でも飲みやすい豆です。ただし、アラビカ豆は霜や乾燥・病害虫などにも弱いのが特徴となっており、栽培するのが難しいことから価格がやや高くなる傾向があります。
希少性に優れている「リベリカ豆」
リベリカ豆の原産地はアフリカのリベリアで、強いコクと苦みは一度飲むと忘れにくく、しっかりとしたボディを感じることができます。日本ではあまり見かけることが少ないため、希少性に優れている豆としてコーヒー通の間で知られています。飲みごたえがあるコーヒーを飲みたい方は、リベリカ豆から探してみるのもありです。
重厚な苦みが楽しめる「ロブスタ豆」
ロブスタ種の原産地はアフリカのコンゴ盆地で、苦味が強く渋みがあり、香りは麦茶に似た香ばしさが特徴です。少し癖のある豆であり、インスタントコーヒーではやや採用されにくい品種になります。癖の強さからストレートで飲まれることは少ないですが、練乳や砂糖・牛乳を加えて飲むかアラビカ豆とブレンドして飲む人が多い豆です。
健康面での不安
身体に良くないから、インスタントコーヒーは飲まないという方がいます。スペシャルティーコーヒーのようにグレードの高いコーヒー豆があるならば、グレードの低いコーヒー豆も存在しています。ディスカウント品、ローグレード、コマーシャル、というグレードです。これらのコーヒーは、コーヒーグレードの一番下の部分にあたるもので、最も多く市場に出回っています。ローグレードのコーヒーは、商品で言うと、「缶コーヒー」「インスタントコーヒー」「安いレギュラーコーヒー」にあたります。特に缶コーヒーやお湯で溶かして飲むインスタントコーヒーは、豆の原型をとどめていません。
原型をとどめていないということは、どんなコーヒー豆で作られているか消費者は視覚確認ができないということです。
欠点豆の含有率が高い
自家焙煎のコーヒーショップでは手作業で取り除かれますが、市販の安いコーヒー豆はどうでしょうか。コーヒー焙煎士の方が実際ドラッグストアに並んでいた安いコーヒー豆の欠点豆の混入率を測ってみたところ、500g中、なんと100gが死豆やカビ豆、虫食い豆があったと報告されています。他にもスーパーで売られている100gあたり215円のコーヒーは、3分の1が欠点豆だという結果も出ています。大量に低コストで販売されるコーヒー豆は、どうやら一粒一粒まで気を使われて販売されていないようです。そしてこの欠点豆を飲み続けることで体調に異変を生じることが報告されています。
化学物質の存在
一般的なコーヒー豆の栽培時には大量の合成石油系肥料・化学肥料を使っています。体にはもちろん、土壌汚染や水源汚染につながることはご存知だと思います。しかし、一般的なコーヒー豆に使われる化学物質は栽培時だけではありません。最も怖いのが、輸入の際に行われる「燻蒸(くんじょう)処理」です。コーヒー豆は100%が輸入品です。コーヒー豆は食品ではなく、植物として輸入されます。農林水産省では、植物に有害な動植物の駆除、有害動植物の蔓延防止、農業生産の安全及び助長を図ることを目的とする「植物防疫法」という法律があります。
日本には生息していない害虫を国内に運び込まないように、検疫の際に殺虫処理をする、これが燻蒸処理です。燻蒸に使われる化学薬剤は、私たちが普段害虫退治に噴射する商品以上の毒性を持っています。コーヒー豆における燻蒸処理は、コーヒー豆を麻袋に入れて非常に強力な殺虫剤をコーヒー豆に浸透させます。コーヒー豆の内部に入り込んでいる害虫を駆除できるよう、24時間から72時間という時間をかけてじっくりといぶします。燻蒸処理は「害虫の有無にかかわらず」行います。燻蒸処理に使われる薬品は「臭化メチル」というものです。(オランダ政府からは、臭化メチルは発がん性の疑いがあると劇物指定されています)。臭化メチルは空気に触れると気体となって蒸発すると言われていますが、微量ながら成分は残ります。コーヒー豆の内部にも浸透させ殺虫されていると知ると、一般的なコーヒー豆の安全性は疑問視されます。こういった事実を知らずにコーヒーを選ぶと、私たちの体に有害物質が蓄積されていきます。しかし、燻蒸処理をしないで輸入されるコーヒーがあります。それが、有機JAS認証を受けた、オーガニックコーヒーです。栽培時に有機農法で育てられたのに輸入の段階で化学薬品を使われてしまったらオーガニックを名乗れません。
オーガニックコーヒー
安心できるオーガニックコーヒーを飲むために『豆栽培から消費者に届くまで薬剤にさらされていない』という2つの証明書を確認しましょう。
◆有機JAS認定
◆非燻蒸証明書
注意していただきたい点は、「無農薬」=「有機栽培(オーガニック)」ではないということです。有機JAS認定は4つの段階があります。
1、生産者による認定
2、輸入業者による認定
3、小分け業者による認定
4、製造業者による認定
有機JAS認定は、この4つの過程のどこかで化学薬品で消毒された場合、オーガニックを名乗ることはできません。しかし、無農薬とだけしか表示のない商品に消毒が施されていても「無農薬」として販売されています。認証のない場合、実際に土壌に農薬が残っていたり、農薬を散布しているほかの畑から飛散していたりします。
有機JAS認証団体からも、無農薬という表示は原則禁止されていますが、強制力はまだまだのようです。
・有機栽培=オーガニック認証あり
・無農薬栽培=オーガニック認証なし
である点を心に留めてください。
適量
おいしいインスタントコーヒーを入れるには、一般的には、ティースプーン山盛り1杯<約2g>にお湯<140ml>が適量です。ただ、山盛り1杯にこだわる必要はありません。疲れたときは濃いめ、お菓子と一緒の時は薄めなど、個人の好みやその時々で加減してみてください。インスタントコーヒーは、そのときどきで好きな濃さに出来るのが、とても良いところです。
インスタントコーヒーの欠点は
インスタントコーヒーの良さは、なんといっても手軽さですが、その欠点は致命的ともいえる味の悪さです。 それはインスタントコーヒーがコーヒー液を抽出した上で脱水するという工程を得るため、どうしてもその過程で酸化しやすいということなのです。まずいと感じる一番の原因は香りです。 コーヒーは、「挽きたての豆で淹れたての状態」が一番美味いと言われます。 インスタントコーヒーの場合、コーヒー豆から抽出後、その抽出液を加工して粉にしています。 この過程で香りはどんどん失われてしまうのです。
淹れ方へのこだわり
インスタントコーヒー、誰が淹れても、どうやって淹れても、同じ味だと思っていませんか。 NHKの番組「ためしてガッテン」で紹介された「インスタントコーヒーが10倍美味しくなる淹れ方」を試してみると、これが驚くほど美味しいのです。
淹れ方のポイントは(コーヒーカップ1杯分)、
①お好みのインスタントコーヒーをティースプーンに山盛り1杯で投入します
②ティースプーン1杯分の水を入れて、ダマがなくなるまでスプーンでよく混ぜます
③熱湯140ccを注いて完成です
ポイントは熱湯ではなく「水」で溶かすことです。なぜ水で溶かしてから淹れると美味しくなるかですが、「ためしてガッテン」によると、「コーヒーの粉にはデンプンが含まれているため、いきなり熱湯を注ぐと、粉の表面のデンプンが固まってダマとなり、粉っぽい味になる」ということです。
人気のインスタントコーヒー
・ネスレ日本/ スターバックス:プレミアム ソリュブル ブロンド ロースト
・ネスレ日本/ スターバックス:カフェ モーメント スムース
・ネスレ日本/ スターバックス:カフェ モーメント ブライト
・ネスレ日本/ NESCAFE GOLD BLEND:ネスカフェ ゴールドブレンド
・ネスレ日本/ NESCAFE:ネスカフェ エクセラ
・スターバックスコーヒージャパン/ Starbucks:ヴィアR コーヒーエッセンス パイクプレイスR ロースト
・Blue Bottle Coffee/ ブルーボトルコーヒー インスタントコーヒー
・TO_PREMO/ 01 スペシャルティインスタントコーヒー
・UCC上島珈琲/ UCC:ザ・ブレンド 114
・UCC上島珈琲/ UCC:クラスワン
・セブンイレブン・ジャパン/ セブンプレミアム:いつもの珈琲
・ネスレ日本/ NESCAFE GOLD BLEND:オリジン ホンジュラスブレンド
・クライス/ エクスプレスコーヒー
・ドトールコーヒー/ インスタントスティックコーヒー ブラック
・ドトールコーヒー/ ドトール 香り豊かなおいしい一杯
・味の素AGF/ Blendy:ブレンディ
・味の素AGF/ ちょっと贅沢な珈琲店:スペシャル・ブレンド
・味の素AGF/ MAXIM:マキシム インスタントコーヒー
・キャメル珈琲/ カルディオリジナル:カフェカルディ ザ・マイルド
・Mount Hagen/ オーガニック フェアトレード インスタントコーヒー
21. アイスコーヒー
21.アイスコーヒー
粉、湯、氷の量の目安
濃いコーヒー6 : 氷4 と覚えると良いでしょう。
◆氷を後から加える方法 400ccの作り方
①40gのコーヒー粉で、通常どおりドリッバーで抽出します
②抽出されたコーヒーが2杯分(240ml)の目盛りまできたらドリッパーを外します。
③氷160gを入れて急冷する
急冷用の氷は8個~9個(160g)で、だいたい400mlの目盛りまで入れるのが目安です。氷を入れたら片方の手でサーバーをおさえて、スプーンでかき混ぜてください。カラカラという音がなくなるまでしっかりと溶かします。手で触って、サーバーが冷たいと感じられたらOKです。急冷は香りを封じ込め、透明度のあるコーヒーを楽しむために重要な手順になるので素早く行いましょう。
④グラスに注いで、さらに適量の氷を加えます
お好みのグラスに氷を入れておき、サーバーからアイスコーヒーを流し入れます。
◆氷へ直接落とす抽出法 600㏄の作り方
①サーバメモリ600CCラインより少し下まで氷を詰める
②コーヒー粉は50~60g
③氷に直接掛けて最短で冷やすことを心がける ※サーバも冷やしておくとベスト
④濃い目に抽出しておき、コップの氷と合わさると調度よい濃さになる
⑤1~2時間、冷蔵庫で寝かせておくと、コク・まろやかさが出る
※臭いが飛ばないようにフタをしておく
急冷法のアイスコーヒーと水出しアイスコーヒーの味の違いとは
急冷法のアイスコーヒーは、香り高くキリッとした苦味があり、しっかりとした味わいであり、水出しアイスコーヒーは、苦味が強くないため、まろやかな味わいとなります。急冷法を使ったアイスコーヒーは、熱いお湯を使って濃くいれたものを氷で冷却するため、しっかりとした味わいが楽しめます。きりっとした苦味を楽しみたい人向けです。水出しコーヒーは低い温度で時間を掛けてコーヒーの成分を引き出すので、苦味があまり強くなく、口当たりが柔らかいのが特徴です。
アイスコーヒーに使用する豆(粉)の特徴
深煎り、極深煎りの豆(粉)を使用します。アイスコーヒー専用の豆、もしくはフレンチロースト以上のものを使用します。アイスコーヒーをいれる場合、ホットコーヒーの時よりも少し多めに粉を使用します。(コーヒー粉10gに対してお湯100㏄)理由は、抽出後の急冷と、グラスに入れた際の氷が溶けてもしっかりした味を出すためです。
水出しアイスコーヒーのおすすめの豆(コーヒーバック)
水出しアイスコーヒーは「香味まろやか水出し珈琲」等、お勧め商品が揃っています。水に最短4時間つけておくだけで、水出しコーヒーができあがります。バックタイプのアイスコーヒーのためお手軽なのも特徴です。
アイスコーヒーを楽しめるアレンジレシピ
◇アイスカフェオレ
1.ポーションシロップをグラスに2つ入れます
2.グラスの中に勢いよく1/3ほど牛乳を入れ、シロップとよく混ぜます
3.氷を入れます。牛乳の表面に氷の頭が出るくらいに入れるのがポイント
4.コーヒーを少しずつゆっくりと入れます。氷に沿わせるイメージで入れるときれいにツートンになります。層になっていることを確認しながら、1:1の割合で注いでください。牛乳だけでなく、アーモンドミルクや豆乳などの植物性ミルクと割っても相性が良いです。
◇アイスコーヒーの炭酸割り
1.ポーションシロップを1つ入れます
2.水出しアイスコーヒーを90ml注いでシロップとよく混ぜてください
3.氷を適量入れます
4.炭酸を氷に沿わせながら30ml注ぎます。3:1の割合を意識すると見た目もきれいにできあがります。微炭酸のものを入れるのも爽やかさがより一層引き立ちます。のど越しもとても良いため、暑い日におすすめのレシピです。
◇その他アレンジレシピ
アイスコーヒーの種類Aとおすすめの割りものB
A:しっかりと飲み応えのある苦味タイプのアイスコーヒーの場合
B:乳製品(牛乳、豆乳、アーモンドミルク)や練乳キャラメルや、チョコレートソースなど粘度感のあるもの
A:水出しアイスコーヒーやすっきりしたタイプの(苦味が少ない)アイスコーヒーの場合
B:炭酸、ミント、グレープフルーツジュース、ミントを叩いて入れるとさらに爽やかに
A:酸味の強いアイスコーヒー
B:柑橘系のジュース、コアントロー(オレンジ)、キリッシュなどのリキュール系
◎ご案内
ホームページ内の「シンプルコーヒー楽(がく)」でも、「謎深き飲み物よ、アイスコーヒー」として紹介しています。内容は以下。
・冷たいコーヒーとアイスコーヒーは別モノ
・ドリップ式アイスコーヒーについて
・クリームダウン
・コールドブリューコーヒー
・ダッチコーヒー
・砂糖とミルクの順番
・達人の技
20. 水出しコーヒー
20.水出しコーヒー
起源・特徴
水出しコーヒー(Cold Brew Coffee -コールドブリューコーヒー)は、ダッチコーヒーとも呼ばれます。オランダ語のようですが、起源はインドネシアだと言われています。インドネシアでは、20世紀初頭に独立運動が起こり、第二次世界大戦中は日本軍政にあったわけですが、それ以前は16世紀頃からオランダ統治下にありました。水出しコーヒーの始まりには諸説あるのですが、時代的に『ダッチ = オランダ』というキーワードが関わっていたことは確かなようです。
戦前のインドネシアでは、少量の濃いコーヒーにミルクをなみなみと注いで飲んでおり、その濃いコーヒーの抽出方法として、細かく挽いた粉に水を含ませて一晩放置するというものでした。そしてこの淹れ方に興味を示し、再現しようと試みたのが、京都の老舗「はなふさ」のマスターです。彼は当時、京都大学の科学専攻の学生に協力を仰ぎ、水出しコーヒーの器具の開発も行ないました。また、水出しという技法そのものが出来た背景には、当時のインドネシアで主に栽培されていたコーヒーの品種がロブスタであったためという説もあります。
ロブスタのコーヒーの特徴は以下の通りです。
・苦みが強い
・病気に強く栽培しやすい
・ベトナム、ブラジル、インドネシア、コートジボワールが主な産地
・コモディティグレードとしての流通量が多い
・単体ストレートで飲まれることはほとんどない
・カフェイン量が多い
つまり、ロブスタ種は強い雑味があり、これをなんとか美味しく飲めないものか、と考案されたのが『水出しコーヒー』だったうわけです。
水出しコーヒーの淹れ方
水出しコーヒーの淹れ方は、大きく2通りあります。ひとつは、挽き豆を水に入れて数時間後に濾過する方法。もうひとつは、挽き豆に水を一滴ずつ滴下する方法です。前者はフレンチプレスで作ることもできますし、不織布などのバッグ入れた挽き豆を水を入れたポットに投げ込み数時間抽出するという方法も一般的です。室温でも冷蔵庫でも、どちらでも抽出できるため、とても簡単に楽しめることが特徴です。
フレンチプレスで作る 簡単水出しコーヒー
1.挽き豆をフレンチプレスに入れる
2.水を注ぎ軽く混ぜる
3.蓋をして約8時間抽出する
4.蓋を外して軽く混ぜる
5.プランジャーを押し下げる
6.ペーパードリッパーで漉す
7.来上がり
後者の挽き豆に一滴ずつ滴下する方法は、専用の滴下式器具が必要となります。そのため、喫茶店などで楽しむ特別なコーヒーというイメージがありますが、最近では小型の家庭用も販売されています。こちらは抽出自体が演出感のあるものなので、見る目を楽しませてくれます。
水出しコーヒーの味の特徴
水出しコーヒーの味の特徴ですが、水を使ってゆっくりと時間をかけて抽出するため、良質な甘味と柔らかい苦みが特徴として引き出され、嫌な苦みやエグみは抑えられます。丸みのある柔らかい飲み心地と風味は、水出しでしか味わえないものとなります。逆に、水出しコーヒーのデメリットとしては、抽出に時間がかかることと、お湯ほど成分が抽出されないので、酸味が引き出しきれないことがあります。また、コーヒー豆の品質も良いものでないと、嫌な香りが出てしまうことがあります。
19. ジャンピングという指標
19.ジャンビングという指標
紅茶を淹れるとき、「ジャンピング」という言葉を耳にします。ポット内のお湯が対流して茶葉が舞い踊っているあの様をいいます。このジャンピングはお湯の浸透速度だけでなく、味に影響を与える重要な指標なのです。美味しい紅茶を淹れるためには、空気をたくさん含んだお湯が大切だとか、酸素を多く含んだお湯が美味しいとか、言われています。まず、お茶から最も良い味を引き出すためには、水は酸素を含んでいなくてはなりません。水は沸かされるたびに酸素は減少しています。NHKの番組では、「茶葉に空気が付いて対流が起こり美味しい紅茶に必要なジャンピングが起こる」と解説していました。では「空気」と「酸素」では意味が異なるのでしょうか。空気の成分の78% は「窒素」です。ですから「窒素」が影響している可能性も有るのです。「窒素」は一般に不活性で、化学変化を起こしにくい気体ですので、窒素が紅茶の美味しさを変化させるとは思えません。逆にその不活性を利用して、通常起こる反応を押さえることで、通常とは違う紅茶になる可能性も有るといえます。血圧を下げると言われているギャバロン茶はその窒素の嫌気性を利用してお茶を変化させているのです。
空気の成分の約78%が窒素だということは説明しましたが、酸素は約21%、そして残りの多くがアルゴンガスで約0.9%、二酸化炭素は約0.03%と微量です。しかしほんの少しの二酸化炭素によって、水のpH(酸性度、アルカリ度)が大きく変わることは良く知られています。
水は、沸騰させると、どんどん空気が抜けていきます。当然、空気の成分である二酸化炭素もどんどん抜けていきます。そのために沸騰させ続けていると、お湯の性質は、中性からアルカリ性へと変わっていきます。
・沸騰していないお湯⇒ pH = 7.8
・沸騰したてのお湯 ⇒ pH = 8.3~8.5
・沸かしすぎのお湯 (約10分間沸騰させた)⇒ pH = 9.0~9.2
このように、二酸化炭素によって水の性質が変わっていくため、二酸化炭素が紅茶の美味しさに大きく関係している可能性も大きいのです。ある有名な実験室にて、沸かし抜いて空気を殆ど抜いたお湯に改めて、空気、酸素、二酸化炭素の3種類のガスを吹き込んで、酸素比率の高いお湯、二酸化炭素比率の高いお湯を作り出し、紅茶を淹れて飲み比べたそうです。抽出後に紅茶の空気成分はどんどん変わっいくので、味自体も時間と共にどんどん変わっていきます。特に変化の速いのは二酸化炭素だそうです。沸きたての新鮮なお湯で入れた美味しい紅茶に近いのも、二酸化炭素を吹き込んだ紅茶です。一方、酸素を吹き込んだお湯で淹れた紅茶は、どんどん渋くなったそうです。二酸化炭素の場合は、入ったり抜けたりして味が戻るような感覚もあるのですが、酸素の場合は成分を酸化させ、固定してしまうような感じで、一旦渋くなると元には戻らないようです。結果として、何が紅茶を美味しくさせているかは判りませんでしたが、酸素は紅茶を美味しくさせるのではなく、渋くさせているようです。しかし、この渋さは、ミルクティーに非常に合うのです。ミルクティーが基本のイギリスでは、以下の公式な記述「お茶から最も良い味を引き出す
ために、水は酸素を含んでいなくてはなりません、もし水が一度ならず沸かされるなら、これは減少しています。」という表記は、正しいのです。でも、ストレートティーの方が多い日本では、美味しい紅茶に必要なのは「空気」と言うべきでしょう。
そして一番美味しいのは、ストレートの場合、沸かしたての新鮮なお湯で淹れた紅茶です。どこの茶園でも、どこのティーオークションでも、「沸かしたての新鮮なお湯」でテイスティングしているのです。つまり、沸かしたての新鮮なお湯で一番美味しいように紅茶は作られているということです。しかし沸かしたてでも、沸かす前の水に空気が少なかったらNGです。たくさんの空気(湧いたときに一定となる量)を含んだ水が必要です。そして、その空気の状態を判るように見せてくれているのが「ジャンピング」という現象なのです。その動きから抽出速度や味自体に影響する空気の状態を明確に見せてくれる重要な指標と言えます。
18. コーヒーの泡
18.コーヒーの泡
ガスの放出
ドリップ式でコーヒーを淹れる時、湯を注ぐとコーヒーの粉がふわっと盛り上がり、細かい泡がぶくぶくと出てきます。コーヒー通なら「これは新鮮なコーヒーの証だ」と確信します。逆にそれがなければ、「焙煎後時間の経った古いコーヒーだ」ということになります。しかし、この「細かい泡=新鮮なコーヒー」という説は本当なのでしょうか。 コーヒー豆は焙煎すると、炭酸ガスをはじめさまざまな成分の気体を放出します。このガスの放出は焙煎直後がもっとも多く、その後徐々に減少していきます。ドリップ式で淹れたときの泡はそれが湯を注ぐことによって一気に放出される瞬間なのです。そして重要なことに、このガスは「コーヒーのおいしさ」に深く関係する物質でもあります。「細かい泡=新鮮なコーヒー」というのは本当なのです。 ただ、このガスはコーヒーをパッケージングする際にはちょっと厄介な存在です。焙煎したコーヒーは外気に触れると酸化し、風味が損なわれてしまいます。ところがこのガスの放出が、焙煎したてのコーヒーを密閉した容器に詰めることを困難にしているのです。 しかし実際は、コーヒーは缶詰や真空パックなど密閉した容器・包材に入れて販売されています。 これはどういうことなのでしょうか、例のガスはいったいどこへ行ってしまったのでしょうか、実は缶詰や真空パックのコーヒーは、ガスがほとんど抜けきってからパッケージングされているのです。 「おいしさの素」でもあるガスが抜けてしまってから…。
焙煎したての新鮮なコーヒーをパッケージングするためには、外気をシャットアウトし、 かつコーヒーの放出するガスを排出する一方通行のバルブが必要です。袋についた「おへそ」のようなバルブですから、ご購入の際にはぜひお確かめください。
コーヒーと泡の関係ですが、コーヒーの味と泡とはとても深い関係にあります。例えばペーパー・ネルドリップの場合、お湯を注ぐと細かい泡がドリッパーの中にたくさん出てきます。淹れ方について説明している本を見ると、どれも「この泡が抽出されるコーヒーに混じらないように」薦めています。サイフォンの場合も、漏斗の中でコーヒーの粉と湯が混じると上に泡を生じます。また、エスプレッソですと、ポットにせよマシンにせよ出来上がりのコーヒーに細かな泡がびっしり浮いています。トルコ式コーヒーを淹れる場合には「泡はコーヒーの顔だ」という表現をし、抽出中に決して泡を消してはならないとされています。顔のない人がいないように、泡のないコーヒーもあってはならないというわけです。では、この「泡立つ」ということがどういうことなのか。またこれがコーヒーの味にどのような影響を与えるのか、科学的な解説を交えながら考えてみたいと思います。
「泡立つ」ということ
「泡立つ」という言葉を聞いて、まず連想するのは「石けん」です。洗濯やシャンプー、シャボン玉しかり、石けん水は確かに泡立つものの代表のように考えられます。しかし、ここで次の3つの例について考えてみて下さい。
1.水を入れたコップに蓋をして激しく振り混ぜる
2.水を入れたコップの中に石けんを静かに沈め、そのまま溶けるまで静置する
3.石けん水を入れたコップに蓋をして激しく振り混ぜる
果たしてどのコップが「泡だっている」でしょうか、「1」は混ぜた瞬間には泡ができますがすぐに消えてしまいます。「2」は振り混ぜればすぐに消えにくい泡ができますが、置いているだけでは泡ができることはありません。
この例を考えれば「泡立つ」ためには少なくとも2つの要素が必要なことになります。すなわち
1.泡が発生すること
2.発生した泡が消えない(消えにくい)こと
です。
なぜコーヒーに泡が「発生する」のか
泡が発生するにはさまざまな原因があります。どれも最終的には、空気などの気体が水に混ざる(≠溶ける)ということに変わりはありません。水はいろいろなものを自分に溶かし込む働きを持っていますが、溶かせる量には限りがあります。溶かされる物が固体ならば溶けきれずに残り、
水より重いものが下に沈み(沈殿し)ますが、気体ならば溶けきれない分は水より軽いために空気中に逃げていきます。これが気泡、すなわち泡になるわけです。例えば上に挙げた例のように、水を入れたコップに蓋をして振り混ぜればコップの中の空気と混じって泡ができますし、水道の蛇口をひねってコップに水を受けるだけでも泡は生じます。さて、肝心の「コーヒーの泡」はどうでしょう。この場合も幾つか分けて考える必要があります。
ドリップ時に生じる泡
ペーパードリップやネルドリップ で、新鮮なコーヒーの粉に湯をかけると泡が生じます。もし湯を勢いよく注いだのであれば、そのために周りの空気が混ざって生じた泡であると考えられるでしょう。確かにこの泡もあるとは思います。ですが実際にはどれだけ静かに注いでも泡は出てきますし、周りの空気が混ざるというよりもむしろ粉の内部から出てくるように見えます。コーヒー豆はもともと植物の組織を煎ったもので、顕微鏡レベルの大きさの穴が無数にある多孔質です。この穴の部分には焙煎の時に生じるガス(おもに二酸化炭素)や空気が入っていますが、これに湯が染み込んでいくと中のガスが周りの水の中に追い出されると考えることができます。この細かい泡がドリップの時の泡だと考えていいでしょう。この考えを応用してみると、俗に「蟹泡」と呼ばれるものの説明も可能になります。蟹泡とは、最初の蒸らし のあと、本格的な注湯をするときに「ぼこっ」と大きい泡が生じることを言います。原因は「蒸らしが不十分である」ことが指摘されています。もし蒸らしが十分であれば、ドリッパー内の粉には均一に水が染み込んでいるはずです。この状態で注湯すれば粉全体から均一な細かい泡が生じてくるでしょう。しかし不十分な蒸らしであれば、ドリッパー内に湯が染み込んでない部分が出てくるわけです。そこに新たに注湯すると、すでに湯が染みていた部分からは細かい泡が出ますが、そうでない部分からでるガスの量は極端に多くなっていることが想像できます。このガスが大きい泡(蟹泡)になると解釈されます。つまり「蟹泡が立つ=蒸らしが不十分」の公式が成り立つわけです。
エスプレッソに生じる泡
エスプレッソは水蒸気を発生させて、その蒸気圧を利用してコーヒーの粉の中に瞬間的に湯を通して抽出する方法です。これにはポット型の直火にかけるタイプのもの(以下ポット)とエスプレッソマシン(以下マシン)の2つがあります。マシンでの泡立ちとポットでの泡立ちには差が見られ、
ポットでは十分な泡が出ないことが指摘されています。エスプレッソの場合も 1. と同様、粉からのガスの発生は起こっています。ですが、ポットとマシンの最大の違いはかかる「圧」にあります。粉の詰め方も大きく影響しますが、それでもマシンの方が遥かに高圧で抽出が行われます。
空気などのガスが一部水に溶け、溶けきれないものが気泡になることと書きましたが、この溶ける量は圧が上がるにつれて多くなります。エスプレッソを抽出するときにかける圧のために、その分が多くのガスとして水中に溶け込みますが、それが器具から出て通常の気圧に晒された途端、気泡となって出てくるのだと考えられます。炭酸飲料の入ったビンの蓋を開ける時に起こる状況が、エスプレッソの泡が生じる最大の原因だと思われます。
サイフォン・トルココーヒーなどに生じる泡
サイフォンやトルココーヒーの場合も上手に静かに淹れれば、ドリップの場合と同様だと思われます。ただし、ドリップが注湯の勢いで生じる泡を無視できないのと同様に、これらも沸騰による泡を無視することはできません。
なぜコーヒーの泡が「消えない」のか
石けん水の例で言えば、ここまでの説明は「コップを振り混ぜる」ことに当たります。しかし石けんが溶けてなければ、いくら泡を作ったところで、すぐに消えてしまい「泡立ち」は見られません。石けん水は水の中に石けんの分子が溶け込んだものです。石けんは一個の分子の中に、水に馴染みやすい(親水性の)部分と馴染みにくい(疎水性の)部分を持った分子です。そのため、油よごれなどに疎水性の部分でくっつき、親水性の部分を外側に向けて集まることで全体を水に溶けやすくするような働きを持ちます。これが石けんの洗浄作用の原理です。相手が油よごれではなく、空気になったときも同じようなことが起こります。石けんの分子はその疎水性の部分を空気に向け、親水性の部分を水に入れたような状態で集まりたがる習性があります。そのほうが疎水性の部分まで水に浸けておくよりも、全体的に見て余分なエネルギーを使わずにすむからです。
石けん水の中に気泡が生じた場合、気泡は水よりも軽いですから上にのぼりますが、それが液面まで到達した時にはじけて消えてしまうよりも、消えずに残しておく方が余分なエネルギーを使わずにすむ、このような原理で石けん水の泡が消えずに残るのだと考えられます。このとき、石けんの分子は 泡の部分に高濃度で集まり 、溶液の表面張力を著しく低下させています。このような作用を 界面活性作用 、またこういった性質をもつ物質を 界面活性剤 と呼びます。すなわち「コーヒーにも界面活性作用を持つ成分があるんではないだろうか」ということです。石けんほど強くはないにせよ、界面活性作用がある物質が幾つか含まれていることが考えられます。有力な候補としてはクロロゲン酸由来の焙炒化合物が考えられます。コーヒー生豆に含まれているクロロゲン酸は、焙煎時の加熱反応によってコーヒー酸とキナ酸に分解され、さらに場合によっては糖や蛋白などと結合し,コーヒーの性質を決める上で重要な化合物になると考えられます。これらの中で、脂溶性の高いボディにコーヒー酸由来のフェノール基が多く結合したような化合物が生じることが考えられ、こういった化合物が界面活性作用を持つのではないかと考えられます。また生豆の段階から考えても、種々の配糖体やクロロゲン酸類などに界面活性作用があるのではないかと考えられます。また糖や蛋白などの高分子のうち、水溶性の高いものについてもよく泡立つことが知られています。これら化合物の多くは焙煎によって分解されますが、その一部がコーヒーの
界面活性に関与している可能性もあります。これらの成分が石けん分子の役割を果たし、コーヒーの泡が消えないのだと考えてよいでしょう。
泡とアク
泡の正体が掴めてきましたが、なぜ泡がそれほどまでに大事なのでしょう。答えは「泡を舐めてみる」ことです。ドリップ式で抽出したときに、ドリッパーに浮かんできた泡を舐めてみてください。吐き出さずにはいられないようなひどい味が舌にまとわりついたはずです。きつい苦味と青臭いようなえぐ味、そして口の中がしぼんでしまうような、ひどい渋味が感じられます。これらが泡に集まっている成分、すなわちサポニンやタンニンの味です。一般的に「雑味」「アク」と言われているものに当たります。なぜコーヒーの泡が「消えない」のかを思いだしてください。石けんの場合、その分子は水中に溶けているよりも泡を形成するほうが安定します。そのため水中よりも泡の周りに集まりたがるということを書きました。アクの場合も水中に溶けているより、泡に吸着されているほうが安定だと考えることができます。泡の部分でアクの濃度が非常に高くなり、その分抽出液中の濃度が減少します。言い換えるなら 泡が抽出液のアクを減らす働きを担っているのです。ドリップ式で抽出する場合、ドリッパー内の湯を涸(か)らさないようにとか、泡が消えないように抽出するというのが、美味しく淹れるための方法として言われますが、これらはすべて、この泡とアクの関係で説明することができます。ドリッパー内の湯が涸れると泡として分離されていたアクが抽出液に混ざってしまいますし、泡が消えるということはその分のアクが抽出液に溶け込むということに繋がるからです。このことが、とりもなおさず「泡がコーヒーの顔」とまで言われる所以ではないかと考えます。
エスプレッソの泡はおいしいか
泡がアクを吸着しているとすれば、エスプレッソの泡はなぜ、おいしく感じるのか、両者は別物なのでしょうか。結論から言うとエスプレッソの泡も多量のアクが吸着していることに変わりはありません。疑問に思われるのでしたら、エスプレッソの泡だけを掬って舐めてみてください。たちどころに口の中が渋くなります。エスプレッソの泡もドリップの時の泡もさほど違いはないと考えられます。ではなぜエスプレッソの泡は美味しいと感じるのでしょうか、おそらくその理由は泡の中身にあると考えられます。泡の中身は空っぽではなく、空気です。例えばアイスクリームの美味しさのいちばんの秘密も空気にあるといわれます。十分な空気が入ることではじめて舌触りや口どけのいい、美味しいアイスクリームが生まれます。エスプレッソについても同じような効果が期待されます。エスプレッソの泡は確かにアクの多いものですが、十分な空気を含むことでその味は和らぎ、
また舌触りのよさが新たに生まれることで、おいしいと感じるようになるのではないでしょうか。
アクの功罪
泡によってアクが抜けることについて触れましたが、100%アクを除くのは不可能です。量の多少はあれ、抽出されたコーヒーには必ずアクが含まれます。これはドリップ式でアクを極力落とさないように淹れた場合でも例外ではなく、抽出液を泡立ててみると消えない泡が生じるのが見られます。味のプロフェッショナルが、ドリップした抽出液を泡立ててはその泡を捨て、味を確認して再び泡立てるということを、泡が消えるようになるまで繰り返しました。エスプレッソマシンのスチーマーを利用して、蒸気で泡立て、泡がすぐに消えるようになるまでに5回作業を繰り返したそうです。結果は、
1.回を重ねるごとに、泡の立つ量が少なくなった
2.それに伴い、コーヒーの透明度が増した
3.コーヒーの味はどんどんまろやかな癖のないものに変化したが、逆に言えば個性に乏しいものになった
この実験は泡立てるために蒸気を使いましたので、泡の部分にアク以外のよい味を作る成分もわずかに吸着していたかもしれません。しかしアクが少量含まれていることでコーヒーの味に個性が生まれるという可能性は大です。気を使ってドリップしても結構な量のアクがコーヒーに入ってくるわけですから、普段は極力アクが出ないようにすることがコーヒーを美味しくする秘訣です。しかし、アクにはアクなりの良さも持っているのです。アクの味は、それが苦痛にならない程度ならば、コーヒー全体の味わいにアクセントを加えて個性のあるものに仕上げることになります。また、アクの成分に界面活性作用があるのであれば、コーヒーに含まれている脂肪分を抽出液に溶かし込む働きを担っていると想像できます。脂肪分はコーヒーにコクと滑らかな舌触りを与えますので、アクが間接的にコーヒーの味わいを深めている可能性もあります。考えれば考えるほど、コーヒーの泡、そしてアクは不思議で奥の深いものだと実感できます。