日記

2023-10-15 12:59:00

4. 体調と味覚

4.体調と味覚
味を感じるメカニズムとは、私たちは“味覚”をどのように感じているのでしょうか。口の中を見てください。舌の表面には、ブツブツとした突起が無数にあります。これが味蕾と呼ばれる、味を感じるセンサーです。舌の部位によって、辛みや酸味、甘みといった、さまざまな味を感じるセンサーが備えられています。食べ物を口に入れたとき、その中の化学物質とこのセンサーが結合し、味成分が分析されます。そして、この結果は脳神経を通じて脳に送られ、味を感じます。脳の中でさらに処理され、これまで経験した味との照合が行われ、最終的に、なんの味かということが分かるシステムです。この照合には、高度な脳機能が使われます。 食べた瞬間に、昔の光景が思い浮かんできたり、腐っていると判断して吐き出したり、酸っぱいと判断して唾液をたくさん出したり、味を感じるだけではありません。例えば、感情的に落ち込んでいるときには、どんなものを食べてもおいしく感じられないし、そもそも味がよく分からないというのは、そのような脳の機能によるのです。
 
○整理的に、おいしく感じるもの
・空腹時 → カロリーになりやすい糖分や脂肪
・喉が渇いている時 → 冷たい水分
・身体中の塩分濃度が低い時 → 食塩
・肉体疲労時 → 代謝を促進するクエン酸等の有機酸
・精神疲労時 → 苦味の多い薬効成分

例えば、汗をかいて喉が渇いたときは、冷たい水やビールが最高においしく感じます。一方、肉体仕事をしてお腹がすいているときは、旨味のある濃醇で甘口タイプの日本酒がおいしく感じます。また、スポーツで身体が疲れたときは、酸味を感じる味覚が弱まり、疲労物質の代謝を促進する酸っぱいものがおいしく感じます。長い会議などで精神的に疲れると、苦味の感覚が弱まり、刺激の強いブラックコーヒーがおいしく感じるのです。

 

○習慣的に、おいしく感じるもの
味覚や嗅覚は、食べられるかどうかを見分けるために発達したと言われるように、食べ物の基本は安心して食べられるかどうかです。したがって、いつも食べ慣れているものは安心できるので、おいしく感じるようになっています。お袋の味と言われるものは、正にその代表です。西洋人に鰹節のダシがよくきいた吸い物を飲ませますと、旨味はおいしいと感じるのですが、香りは生臭い、魚臭いと言って嫌います。
また、酒造りをしている人にどこの酒がおいしいかと聞くと、必ず自分の蔵のレギュラー酒という答えが返ってきます。初めの頃、義理でそう答えていると思っていたのですが、そうではなく、飲み慣れているため、実際に自分の蔵の酒を一番おいしく感じているのだということが分かりました。

 

○精神的に、おいしく感じるとき
食べたり飲んだりする時、まず口にする前に、その食品に関する色々な情報から、味わいなどをイメージし期待を持ちます。そのイメージと、実際に口にした時の香味の感覚が合っている場合は、おいしいと感じます。その情報には、容器の形や色、ラベル、裏張りの説明文などがあります。例えば、黒ビンに楷書体の漢字で書かれたラベルに入っている酒であれば重厚な味わいを、水色のスモークビンにひらがなのやさしいラベルであれば、ソフトで軽快な味をイメージさせます。そして実際に中身の酒を飲んでみて、その香味がイメージに合っていれば「おいしい」、違っていれば「まずい」となります。また、仲間と飲んでいるときに、声の大きい人が「この酒はおいしい」というと、周囲の人たちも最初はそうは感じなかったけれど、なんとなくおいしく思えてしまうことがあります。お酒は特に、この傾向が強いようですが、これも精神的おいしさの一種だと言えます。

 

○肉体疲労時の特徴
疲れると「活性酸素」が生まれます。活性酸素は体にダメージを与えるので、それを防ぐために酵素(SOD)が使われます。酵素(SOD)が活性酸素を破壊して、体は守られる。
このSODと呼ばれる酵素は、体内で作られます。酵素を作る時に使われる原料が「亜鉛」なのです。亜鉛は他にも、アルコールを分解する酵素など、いろいろな酵素の原料となります。ところが亜鉛自体の量は限られているので、酵素でたくさん使われると他に回りません。「亜鉛」は、味覚を感じるためにも使われます。亜鉛が他で使われると、味覚に回ってきません。そのため「味覚障害」が起きます。

「疲れていると酸っぱく感じるクエン酸ドリンク」などの製品がありますが、体調によって味覚が変わるのです。酸っぱいものを甘く感じたり、いつもより塩辛く感じたり。そのメカニズムがわかれば体調をチェックするバロメーターにもなるようです。
味覚が変わった経験はありますよね。レモンや梅干しなど酸っぱいものがいつもより甘く感じる、逆にいつもより酸っぱく感じる、しょっぱいものが凄く塩辛く感じる、コーヒーがいつもより苦いなど、味覚が変わったな、と感じる経験はあるはずです。 一過性のものである場合もあれば、一度変わった味覚がそのまま続くこともあります。これにはさまざまな理由がありますが、体調の変化を教えてくれていることもあるので覚えておきたいものです。
まず、ナトリウムが不足しているとクエン酸を甘く感じます。クエン酸ナトリウムが入っているスポーツドリンクなど飲んだ時、喉が渇いていると甘く感じるのに、通常時は少し酸っぱかったり、しょっぱくて美味しくないと感じることが多々あります。これは汗をかいたり水分が不足して体内の塩分(ナトリウム)が薄くなると、体がナトリウムを補給しようとし、本来酸味のあるクエン酸を甘いと認識することで、たくさんのナトリウムが補給できるように脳が指令を出しているのです。そのためナトリウムが十分な時には必要以上に摂らないよう、酸味やしょっぱさを感じて美味しく感じられないようになっているのです。
また、刺激を強く感じるときは体が弱っています。苦みや酸っぱさは、本来毒のあるものや腐敗したものの味覚と共通しています。人間の生存本能として、苦いもの、酸っぱいものは体が拒否しようとします。しかし、飲食しても問題ないという経験や旨味や香りといった別の要素が複雑に絡み合って、苦かったり酸っぱくても美味しいと感じるのです。しかし刺激物には違いありませんから、体調が弱っている時には防御本能でより苦く感じたり酸っぱく感じるというわけです。刺激物がいつもより濃く不味く感じる時は、体が刺激物を避けていると思ってみてください。

 

○精神疲労時の特徴
人はストレス状態では味の感受性が異なることが知られています。疲労やストレスが貯まると唾液の性状が変わることによって肉体的疲労時は酸味、精神的疲労時は苦味を一時的に感じにくくなることがわかっています。
これは日ごろ私たちが激しい運動をした後に、酸っぱいレモンや梅干しを食べるといった行動に現れています。
同じように仕事や対人関係でストレス状態の時に、渋いお茶やコーヒーを無意識で飲む行動は、肉体的疲労時に疲労回復作用のあるクエン酸を得ているのと同様、精神的疲労時には苦味を感じにくくすることで、苦味のある食べ物の薬理作用を利用していると言われています。
また、甘味もストレスを受けた後では強く感じるようです。苦めのチョコレートを使った実験で、ストレス前後では後の方が甘味を強く感じ、苦味を弱く感じることが報告されています。つまり精神疲労の後にチョコレートを食べたくなるのは、平常時よりも美味しさが増加しているからなのです。

 

○病気や体調不良時の特徴
舌には味覚を感ずる味蕾とよばれる細胞があり、そこからの刺激が神経を経て脳に伝わり、甘い、塩辛い、酸っぱい、苦いなどの味覚として感じます。味覚障害は、このような味覚細胞と神経の伝達機構に障害のあるときに起こる異常です。

(1)亜鉛欠乏による味覚障害
  亜鉛は必須微量栄養素のひとつです。偏食、朝食抜き、ファストフードやコンビニの弁当で食事を済ますという食生活が習慣になると亜鉛欠乏症になります。

(2)薬剤による味覚障害
  薬による味覚障害も時々見られます。降圧利尿剤・解熱鎮痛消炎剤・抗ヒスタミン剤・ペニシリン系を中心とした抗生物質・制ガン剤・副腎皮質ホルモン剤などの長期連用・併用で尿に多く亜鉛が排出されるために味覚が障害されることがあります。投与中止で味覚は元に戻りますが、回復に時間がかかることもあるようです。

(3)全身の病気による味覚障害
 溶血性貧血・糖尿病・胃切除・肝疾患・ネフローゼ・透析・腫瘍・膠原病・内分泌機能低下・新型コロナウィルス感染などが挙げられます。

(4)口腔の病気による味覚障害
舌の病気である舌炎や舌苔(ぜったい)口内乾燥症・かぜによる喉の病気でも味覚障害をおこします。シェーグレン症候群では、口内乾燥により味覚障害をきたすことがあります。ヘビースモーカーとパイプ常用者、重金属中毒、頭頚部の放射線照射後などにも発症します。

(5)心因性味覚障害
うつ病・ヒステリー・ストレスなども味覚障害をおこすといわれています。しかし、うつ病は抗不安薬や抗うつ剤を常用していることから薬物による影響もあるようです。

 

○いらいら時の特徴
しかめ面で辛子を舐めると、より辛く感じます。脳は刺激が強い味だけを感じてしまいます。笑顔だと、ふくよかな味を感じるようになります。

 

○空腹時の特徴
味覚の一番大事な役割は有害物を感知すること。
空腹時と満腹時では、甘味の感受性が変化します。空腹のときは、脳内の内因性カンナビノイドの作用で甘味の感受性が高まる。満腹のときはレプチンというホルモンの働きで、甘味の感受性が低下するため、あまりおいしくないのです。
とても精巧なシステムに思える味覚ですが、ほかの感覚と比較すると、アバウトな側面も見えてきます。嗅覚と比べれば、味覚は大雑把といわざるを得ません。何しろ嗅覚は、300種類以上の受容体を備えているのです。それほどの数の受容体が、異なるにおい分子に対応しており、理論的には300種類のにおいを嗅ぎ分けられることになります。もちろん味覚も、5種類の受容体を最大限に駆使してがんばっています。例えば甘味受容体の表面には、甘味成分がくっつける部位が複数あり、成分がどこにくっつくかで甘さの微妙な差を見分けるという。1つの受容体が違う味を区別するのはすごいと思いますが、300種類と比べたら桁が違います。
しかし味覚と嗅覚は、もともと役割が違うのです。生き物にとって嗅覚は、遠くの食べ物や敵を感知する感覚、においの元を精密に区別することに意味があります。一方、味覚は口に入れたものが対象なので、リンゴとナシが区別できなくても、生きていくうえではそう問題ではありません。でも腐ったリンゴは、絶対に判別しなくてはいけません。毒物や腐敗物はたいてい、酸味や苦味を帯びています。それを感知するには、微妙な差を見分けるより、一括りに「毒だ!」と感じる方がうまくいくのです。味覚が五つの基本味という“大雑把”な方式になったのは、元をたどれば生き物として生き残るためだったのです。

 

○必要な栄養はおいしい 体調によって味が変わる
三つの基本味=甘味、うま味、塩味はどれも、体が必要とする栄養成分の味です。ここにも、生き物が生きていくために身につけた、見事な性質があり、体が必要な栄養の味は、おいしいと感じるのです。
例えば空腹で体がエネルギー不足のときは、脳内物質の作用で甘味の感受性が高まる。すると甘いものがおいしく感じられ、食が進む。満腹になると今度はレプチンというホルモンが働き、甘さの感受性が鈍る。「体の要求に耳を澄ませば、必要な栄養がおいしく食べられる。昔から言われる通り、空腹は最高のソースなのです。

 

○年齢差
味蕾を構成する味細胞の数は、加齢とともに減少し、また生理的に神経の味を感じる機能の低下が認められるので、老人では味覚低下が起こりやすくなります。また、老人は 一般に唾液分泌も低下しており、口腔内の乾燥や舌苔など味覚機能の障害となるものが多いのです。

 

○男女差
大人気のスイーツ等の情報は女性から広まりますし、甘いもの好きには女性が多いようです(お菓子の消費量も女性は男性の1.8倍)。これには理由があり、女性ホルモンの分泌が影響しています。
ラットの実験では、女性ホルモンを分泌しているラットとそうでないラットを比べて、分泌させたほうのラットが甘いものを好むことがわかりました。
では男性はどうでしょう。実は、男性のほうが女性に比べて味覚が鈍いのです。1888年に「味覚の鋭さ・鈍さに関する最初の実験」が行われました。実験内容はシンプルで、男性と女性に『感じにくい味 = 薄い味』を何種類かテイスティングさせて正解できるか、というものでした。例えば、ほんの少し砂糖や塩などが溶けた味の判別です。その結果、当時は『甘い・しょっぱい・酸っぱい・苦い』の4つの味しか知られていなかったのですが、4つすべてにおいて女性が優位であることがわかりました。さらに、今世紀に入って2000年に旨味が発見されて、旨味も計測したのですが、これまた女性のほうが鋭いという結果が出ました。つまり、女性が「ちょうどいい」と感じる味を、男性は「薄い」と思ってしまうということ。そのため、女性から見て「男性は濃い味が好きだ」と感じるのです。
なかには、男性でも優れている人はいますが、平均的には女性のほうが優れているのが事実です。女性が味覚の鋭さを持っているのに、味覚のプロである料理人には男性が多いですよね。「味覚や嗅覚は、才能があることは前提ですが、訓練を重ねることで習得できます。アスリートのようなものですね。そのうえ、女性には毎月ホルモンバランスの波があるので、なかなか味覚が一定にならないのです。普段は好まないものを、その時期には好きになる場合も多いようです。

女性は、<甘い>、<酸っぱい>、<塩辛い>、<苦い>、<うま味>の5つある味覚のすべてにおいて男性より鋭いことが指摘されています。女性ホルモンの一つであるプロゲステロンが、味覚を鋭くしている可能性があります。太古の昔から、女性は家にいて子育てをする必要がありましたので、味覚を鋭くすることにより、食品の品質の良し悪しを確かめ、自分だけでなく子供を守ろうとしたのかもしれません。

 

○恋愛モード
恋をしたり、何か楽しいことがあると、脳はさまざまな味の判断を“間違えて”しまいます。特に、人にとってプラスの方向である“甘み”を強く感じることが分かっています。そのため、恋愛をしているときには、普段より食べ物をおいしく、甘く感じるのです。また、恋人が作ってくれた食事や、もらった食べ物を味わうときには、この反応が特に強く起こるといわれています。さらに、何年か後にそのことを思い出すとなんとなく甘い雰囲気がするのも、このような脳における味の変換作用が大きく関係しています。脳と食べ物の味には、切っても切れない深い関係があるのです。

 

○雨降りの特徴
まず、雨の日はいつもよりも湿度が上がるため、色々な物の匂いを濃く強く感じられます。コーヒーも雨の日はいっそう際立っていい香りを放つと言われています。
また、雨降りには味が良くなると言われている食べ物があります。それはラーメンなのです。雨の日は気圧が下がるため、塩分を感じにくくなるようです。無意識に塩味のダシ汁をたくさん飲んでしまうというのです。美味いからといって、スープの飲みすぎには注意が必要です。また、気圧が低いとお湯の沸騰する温度が低くなるため、うまみ成分がアクになる前にお湯が沸き美味しくなるというのです。つまり、晴れの日と雨の日で味が違うのは、気圧とスープのアクの関係なのです。晴れの日は鶏ガラでラーメンのスープを作る際にアクがたくさん出ます。一方、雨の日は出るアクの量が少ない。このアクの少なさが美味しさの秘密です。鶏ガラから出る旨味成分は95℃以上になるとアクになる。しかし、雨の日は低気圧で、スープの沸く温度「沸点」が低くなります。スープは沸騰させないと良いスープにならないが、雨の日は旨味成分がアクになる前にお湯が沸く。
そのため、旨味成分がスープにたくさん残されるのです。