日記
14.蒸らしと抽出成分
14.蒸らしと抽出成分
コーヒー粉に湯を注ぎ、コーヒーを淹れますが、湯は基本的に2回分けて注ぎます。最初は、“蒸らし”のために。次は、コーヒーの成分を“抽出”するためです。
最初の湯を注ぐ時の注意点
①湯をドリッパーの真ん中に、小さな円(100円玉程度)を描くように注ぎます。中心を狙って注ぎ、ペーパーフィルターを濡らさないようにします。ペーパーを濡らすと、水のバリアが出来て、コーヒーの脂成分が上手く抽出できません。ペーパーにコーヒーの脂分が最初に触れるように、この段階で濡らさないようにしましょう。粉の近くから優しくお湯を注げば、難しくありません。
②注ぐお湯は少量です。目安はサーバーにポタポタと数滴落ちる程度です。
③“蒸らし”の段階では、注いだ湯がコーヒー粉全体に行き渡ります。それと同時にコーヒーの粉が膨らんできます。
④膨らむのはコーヒー豆に元々含まれている炭酸ガスが放出されるためです。このガスが十分に放出されると、コーヒー豆に湯の通り道ができ、豆の成分が湯の中に抽出されるようになります。
蒸らしとはなんのためにあるのか
コーヒー抽出における「蒸らし」工程は、豆と湯を馴染ませるための大事な作業です。コーヒー豆の表面は、目に見えない小さな穴がたくさん空いており、初めから一気に湯を注いでしまうとその穴から空気が抜けず、十分な抽出ができなくなってしまいます。そのため、先に少量の湯で馴染ませ、豆表面の小さな穴にもしっかりと湯が行きわたるようにする作業が「蒸らし」です。
蒸らし時間で味が変わる
40秒蒸らし(標準)
フルーティで華やかなフレーバー、甘さを伴う酸味、長く続く後味など、しっかりバランスが取れている。冷めても美味しい。
20秒蒸らし(標準より短い)
フレーバーや甘さが出切っておらず、スッキリしすぎている。その分、酸味だけが際立って感じる。冷めてくると渋みも強く感じる。
60秒蒸らし(標準より長い)
雑味と渋みが強く出てしまい、その分甘さが感じにくい。冷めてくると苦味を強く感じ、雑味と混ざってさらに重く感じる。
なぜ蒸らし時間の差で味が変化するのか
その要因ですが、豆と湯の馴染み具合の差に加え、抽出前半で出てくる成分と、抽出後半で出てくる成分が異なることも、コーヒーの味に違いが出た要因だと推察します。味や風味は主に前半で抽出されていますが、そこで止めてしまうと、バランスが悪いコーヒーになってしまいます。そこに後半で抽出されるわずかな風味や渋みといった要素が加わることで、バランスが取れているのです。
20秒蒸らしの場合、味や風味などのポジティブな成分が出やすい抽出前半に多くの湯を注いでいるため、後半のバランスを取るための要素が少なくなってしまい、60秒蒸らしの場合は、前半の成分が出るタイミングで湯量が不足し、後半のバランサーが多すぎたことで逆にバランスが取れなくなってしまったという結果です。
ハンドドリップは蒸らしの時点で決まる
結論から言うと、ハンドドリップは蒸らしの時点で味が決まります。蒸らしはオムレツ作りでのオリーブオイルの役割に例えられます。オリーブオイルは、料理にオリーブの風味を加えてくれますが、そもそもは油です。フライパンに卵ではなく最初にオリーブオイルを敷くのは、フライパンに卵が引っ付かないように、料理の「準備」をするためです。油を敷かずにフライパンに卵を投入したらどうなるか、卵がへばり付いてしまい、ひっくり返らなくてオムレツは失敗します。
上手い蒸らしをしよう
「蒸らし=ハンドドリップをする準備」なので、蒸らしを上手に行えば、上手なドリップに一歩近づくことになります。具体的には「粉全体をしっかり膨らませる蒸らし」です。その理由は、土手が作りやすいからです。土手を作るとドリッパーの中心をお湯が落ちていきます。そうすると、そこに灰汁が発生します。この灰汁がしっかりと雑味をキャッチし、サーバーに落とさないようにしてくれます。土手を作らないと、美味しいコーヒーは入れにくいのです。また、土手がないとお湯がひたひたになってしまい、ドリッパー内で粉が暴れてしまいます。暴れ(対流)によって「渋み」や「えぐみ」などの雑味が抽出されてしまうのです。
蒸らしをすると豆の良し悪しが分かる
蒸らしをするとドリップがしやすくなるだけでなく、豆の良し悪しが分かるため、味に直結する大事な要素になります。結論からいうと、良い豆は蒸らしの時点で膨らみます。よい豆とはずばり新鮮な豆になります。焙煎してから日が経っていない焙煎豆です。焙煎したての豆はガスを多く含んでいます。湯を注ぐとそのガスが放出されて膨らむわけです。ところが、日が経つとガスがどんどん抜けていきます。日が経ってしまった焙煎豆は酸化しており、嫌な酸味を伴ったコーヒーになってしまいます。そして前述のとおり、粉全体が均等に膨らまないので、注いだお湯で粉がひたひたになってしまい、「決め手の土手」が上手く構築できません。(土手を作らないでドリップする方法もあるのですが、土手を作る基本的なドリップからまず学んでみてください)
◇抽出成分
コーヒードリップの抽出時に、最初に抽出されていくのが「酸味」「甘み」の成分です。そして抽出の中盤から後半にかけて「苦味」の成分が抽出されていきます。抽出が早く終わるほど苦味の成分は抽出されず、酸味を中心とした味覚のコーヒーが抽出されます。逆に時間を極端にかけて抽出すると「酸味」「甘み」を隠した「苦味・エグみ」という雑味中心の味覚に仕上がるというコントロールが可能になります。ペーパードリップは、目的の湯量に達したらドリッパー内にお湯が残っていても、落としきらずにはずします。これにより、雑味が無くスッキリしたコーヒーが楽しめます。
ドリップという抽出方法は、「おいしいトコロをカップに注いで、不味いところはドリッパーに置いていく」 という考え方を基本にしています。これは珈琲豆をお湯に浸したときに、どういうものが出てくるかという事に深く関係しています。この方法を探求したドリップ方法が、松屋式という抽出方法です。大雑把に言うと、4杯分のコーヒー豆を入れて、2杯分の抽出を行なう。その後、2杯分のお湯を足して4杯のコーヒーが出来上がり。と言った手法です。蛇足ですが、この方法は体にも良いと云われています。
コーヒーには沢山の成分が含まれます。旨味、苦み、甘み、酸味、渋み、えぐみ、雑味として説明致します。これらは水への「成分の溶けやすさ」に差があります。まず甘み、旨味はコーヒー豆から溶け出しやすい性質があるようです。ドリップの前半は、旨みや甘み・酸味が凝縮されて出てくるのです。ドリップの後半は、比較的溶けにくいコーヒーの雑味成分である、渋み・えぐみが溶け出します。過抽出。つまり、一カ所にお湯を過剰に注いでしまうのが、まずいコーヒーの元となると言われるのは、この点だと思われます。
適切な量の粉を使っても、まんべんなくお湯があたらなければ、部分的に粉が多すぎたり少なすぎたりと言った状態が起こってしまいます。
また、注ぐ温度が85℃を切ってしまうと、明らかに香り(アロマ)が弱くなると感じます。
蒸らしで使用する湯温は、93-95℃が理想
沸騰直後の湯では、抽出が加速してしまい、一定のドリップで味をコントロールするのは困難で、「苦味の強いコーヒー」が出来上がります。上記のようなコントロールや方法を組み合わせて、豆も色々な種類を試しても理論通りにいかないのがコーヒーでありハンドドリップの面白さでもあります。
コーヒーの抽出メカニズム
コーヒーの粉をマクロ的視点で覗くと、ハニカム構造(蜂の巣構造)をもっています。コーヒー豆一個分のハニカム構造面を広げた場合、テニスコート一面の面積に相当するそうです。この粉にお湯が当たると急に表面積が増えますので、気化(液体が気体に変わる事)します。お湯が粉に吸い込まれて水蒸気となることで、粉が膨らみます。このとき、湯温・湯量が適切ならば、粉の間で蒸気を融通し合うので、全体にお湯が回ります。この蒸気がハニカム構造の中に付着しているアロマオイルをとらえ、そこにさらにお湯を通すことで、コーヒーの風味成分を抽出することができ、薫り高いコーヒーになります。蒸らしのお湯が多すぎる場合、粉に余計な圧力が加わり、うまく膨らみません。また蒸らしの時に、もこもこ粉が盛り上がってくるのは、お湯の温度で珈琲豆に含まれる炭酸ガスが揮発し、豆の間に放出される為です。この現象は、コーヒー豆が新鮮な証拠です。お湯の温度によっても多少ふくらみ具合は異なります。(熱ければ、より早く・多くガスが放出される為、膨らみます)
また、膨らんで泡ができることによって、粉の間に隙間が出来てしまい、粉がお湯を保つ時間が変わってきます。
ここが、新鮮なコーヒーをドリップする難しさです。実際の抽出時の注意点は、「お湯を珈琲に乗せる」様にドリップする事。ジャバジャバと湯を入れてしまうと、コーヒー豆が、ドリッパーの中でグルグルと対流し暴れます。すると「渋み」や「えぐみ」などの雑味が抽出されてしまい不味い珈琲になってします。粉を動かさないのがポイントです。専用の細口ケトルを使用するのは、粉を動かさずゆっくりと入れる事が出来るのと、沸騰したお湯をケトルに移すと、93-95℃に瞬時に下がる為、待たずにドリップできるからです。