商品と料金設定
【断舎離 決行】
オーディオファンなら誰でも知っている、一度だけでもその音色を聞いてみたい、憧れのスピーカーです。1957年~1983年までに約1000台が製造されました。製作には高い技術を持つ木工職人を必要とし、一つひとつが全て職人の手作業で行われています。なお、JBL社最後の職人は日系3世のフレッド加藤氏だったことが知られています。内部構造はユニークで左右のS字型低音ホーンが一体となり、左右先端に3ウェイユニットを配しています。中央には半円形の響板を設置し音場の拡大を実現しています。作りは重厚で見た目はアンティーク家具そのもの、サイズは幅260㎝×高さ90㎝×奥行き60㎝、重さは300㎏という巨大で圧倒される迫力です。初めて見たのは新潟市古町にある喫茶店「シャーモニー」、お店の方には鳴らしてほしいことを伝えられず、頭の中でイメージするばかりでした(リクエストするにはジャズや音源の知識が乏しく勇気が持てませんでした)。意を決して購入したのが15年程前、念願のパラゴンオーナーになりました。本体は3分割できるのですが、家に搬入するためにはクレーン車で吊って、ドアは外し、人材センターから作業の方を募るなど、一大イベントでした。そしてここからが苦難の始まり、友人知人に最高の状態で聞いてもらうには、それなりの装置が必要です。Mcintosh 社の真空管アンプ C-22 R と MC275 R を揃え、レコードプレイヤーはマイクロ BL-111とガラード401、CDプレイヤーはSTUDER D730というラインナップにまで漕ぎ着けました。給料のすべてをつぎ込みましたが、パラゴンでも得意分野と不得意分野があります。ジャズは最高に鳴るのですがクラシックやポップスは苦手なのです。お客様から歌謡曲をリクエストされて残念な結果になったこともありました。そして機器類の故障修理が相次ぎ、聞く機会も減っていき、最高の状態を維持していくのが困難に至り、断舎離を決行しました。家に搬入する時にあれほど苦労したのに、持ち出しは驚くほど簡単、ピアノ運搬業者の二人が籠を担ぐように力技で運び出しました。最後にパラゴンで聴いていた名盤を紹介します。
MJQ(マンハッタン・ジャズ・クインテッド) /サマータイム、マイ・フェイバリット・シングス、マイルストーンズ、枯葉、マイファニー・バレンタイン 等
グレート・ジャズトリオ/イン・ア・メロントーン、ディープ・イン・ア・ドリーム、イン・ア・センチメンタル・ムード、朝日のようにさわやかに 等
ゴンチチ/夜のストレンジャー、ひまわり、メニルモンタン~マックザ・ナイフ 等
フォープレイ/MAX-O-MAN、FOREPLAY、MIDNIGHT STROLL、A SUMMER CHILD 等
チックコリア&上原ひろみ/ホリヴァー・ブルース 等
【断舎離 決行】
TANNOYは、ガイ・ルパート・ファウンテンが創業したイギリスのスピーカーメーカーです。ガイ・ルパート・ファウンテンの音楽思想を頑なに貫いて設計されたWestminster Royalは、芸術品と呼ぶにふさわしく英国王室御用達の特別仕様のスピーカーです。低域を複雑なバックロードホーン、中域は大型ショートホーン、高域はホーンツィーターで鳴らす、オール・コンパウンド・ホーンシステムとなっています。300Hz以下は3mにおよぶ複雑な音響構造のバックローデットホーンが再生。300Hzから1kHzまではユニット全面の滑らかなカーブの大型ショートホーンが再生。1kHz以上はダストキャップの背面にセットされたホーンツィーターが受もち、三位一体となって理想の音像とハーモニーを奏でます。絹のようなしなやかな高弦、ホール全体を包み込む圧倒的なスケール感が展開します。このユニットはタンノイ独自の同軸構造を採用しており、ダイレクト・ラジエーションのウーファーとホーンロードトゥイーターを同軸上に組み合わせた構造となっています。これにより、2個のユニットから放射された音を同じ点で合成し、音像の分解能や定位感に優れた音を実現しています。当時、12畳程度の洋室にウエストミンスター・ロイヤルとJBLパラゴン、ダリMS5を配置して音像を楽しんでいました。ウエストミンスターと相性の良かったアンプはマークレビンソン383Lであり、スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」「フラジャイル」は白眉の出来栄え、彼の高域と弦の豊かな響きがシンクロして鳥肌ものでした。ここで学んだことは、ソフトの録音状態が再生に大きく関わるということです。これほど完璧なスピーカーとアンプを揃えても録音が普通だと満足できないのです。以降、高音質ソフトを狙い撃ちして購入したことを覚えています。大きな蓋が付属しているのですが、普段は付けていませんでした。ある年の猛暑の夏、アンプの故障もあり6月から9月までの間、蓋をしてしまいました。極力エアコンをつけて温度管理に気をつけていましたが、蓋をあけてビックリ、スピーカーのエッジ(つなぎ目のゴムの部分)が左右両方とも避けていました。経年劣化・猛暑・風通し、スピーカー構造上の重さなど、重なっての事故だったのでしょう。アンプとスピーカー双方の修理は経済上の痛手であり、手放すことを決意しました。
QUED(クオード) とは、1936年ピーター・J・ウォーカーによって設立されたイギリスのオーディオメーカーです。社名は、家庭用ハイクオリティアンプを意味する「Quality Unit Amplifier Domestic」の頭文字をとったものです。
【QUED ESL2905】
佇まいに一目ぼれでした。この平べったい板のどこからどんな音が出るのか、オーディオ雑誌の写真を眺めては想像する日々が続きました。調べると静電型という画期的なシステムを採用しており、まずスピーカー本体に電源コードが付いているのです。音を生み出すための振動盤を静電により駆動させることで繊細な音の細部まで表現できるというのが売りでした。
秋葉原のオーディオショップを訪れ、その音色を聞かせてもらいました。ピアノの弦をハンマーが叩きそれがフワッと拡散して空気が響くような感覚が肌に伝わりました。当時、小型サイズの「2805」という機種もあったのですが、迷うことなく「2905」を選んでしまいました。
「選んでしまった」と表現したのには理由があり、このスピーカーを鳴らすための音楽ジャンルがあるということです。まず、低音が出ません。試行錯誤のうえ同じメーカーのアンプならクリアできると信じ、プリアンプ「QUAD QC twenty four」と真空管バワーアンプ・セパレートタイプ「QUAD Ⅱ classic」を購入して接続しました。ピアノや弦楽器のソロは「なんも言えない」高音質なのですが、低域は足りません。また、板全体が鳴るのでオーケストラや歌入りポッブスは苦手でした。よく聴いたのは「久石譲」「ゴンチチ」「フォープレイ」などでした。
静電気を発生させるのでパネルにほこりが付かないように、妻力作の専用カバー(花模様の布製)を普段は掛けておきました。リビングに設置していたので、お客さんが来ると「この物体は何?」とよく尋ねられたものです。その都度、必殺の一曲「千と千尋の神隠し/あの夏へ」を流し、感激していただいたことを思い出します。
「DALI Euphonia MS5」 ダリ社ユーフォニア MS5 といいます。幅28㎝、高さ125㎝、奥行きはなんと55㎝もあります。スピーカーというよりも木工芸術品の域です。北欧の自然に鍛え抜かれた強固な木材・木目が印象的であり、コーン紙には木の繊維が混入されているのが見え、木材との一体感が感じられます。その図太さ、重厚感は音を鳴らす必要などなく視覚だけで十分に満足できる佇まいなのです。当時、国内でも数台しか存在しない代物であり、中古品でしたが高額で購入しました。ところがところが、全く期待外れの音でした。故障ではないかと思われましたが、5つのユニットからはすべて音が聞こえるので不備とは思えず、ただただ鑑賞用のスピーカーとして一年程すごしました。そんな或る日、ツイーターが浮いているのに気付きました。おそらく一年の間に少しずつ飛び出してきたのでしょう。当初からか、運送途中での衝撃が原因なのか定かではありません。メーカーから修繕の方が来られ、ツイーターを交換(左右で40万円でしたが無償で修理)したところブッ飛びました。見違える程の高域豊かな再現力、バスレフ式の低音とのハーモニーに全身が痺れました。一気に我家トッブクラスのスピーカーに成り上がったのです。そしてツイーターの役割がこれ程までに音質に関わっていたのだと思い知らされたのです。系列の「DENON PMA-SA1」と組み合わせて鳴らしました。音楽ジャンルはオールマイティですが、松任谷由実やフォープレイの再現は見事でした。特に音の余韻や反響を取り込んだ録音の再生には抜群の力を発揮します。空気の中を透き通った風が抜けていくような感覚です。厳しい自然の中で鍛え抜かれた木材の内部で吸収・反響しあって選ばれた音だけが放出されるのでしょう。終活と決めなければ手放したくない一品でした。
「JBL 4343B」は、若い頃から憧れのスピーカーでした。青色の板と波形の金属板、鍵留めして支えられている大きなウーハーなど、工作キットのような出で立ちに、心を奪われました。このスピーカーはモデルチェンジが多く、音質や形状、型番が変わるなど進化していきましたが、私が手に入れたかったのはこの「4343」です。確かに「4348」で聞いたジャズは繊細で音場豊かで素晴らしかったのですが、「4343」は荒々しさや躍動感がビカイチで、人間の声、特に広域と中域のエネルギーを肌で感じることができるのです。アンプは、マッキントシュMA6800と組み合わせて鳴らしました。お気に入りは70~80年代ポップスです。「ホテル・カリフォルニア」「テイク・オン・ミー」「フラッシュダンス」「アフリカ」「バワー・オブ・ラヴ」「マネー・フォー・ナッシング」「素直になれなくて」「ワン・モア・ナイト」「チキチータ」「ステイン・アライブ」「五番街のマリーへ、for you…、グランパ/高橋真梨子」「函館の女/北島三郎」「ブルーライト・ヨコハマ/いしだあゆみ」「イノセント・ワールド/ミスチル」等など。
低域をやや抑えて録音されたポッブス系がマッチしたようです。部屋全体がスピーカーになったような鳴りでした。心の壁を突き破るっていう感じでしょうか、高橋真梨子の選曲では泣いてしまったお客様もいたほどです。昨晩、ご主人と喧嘩したそうですが、歌の世界観に触れ、つまらない愚かな意地の張り合いだったと気付いたら涙が溢れたそうです。もう何十年とそばにいた人、知り合った頃は何でも許せたのですから。